アラブ人の祖イシュマエルと「旧約聖書」

 アメリカのトランプ大統領の、中東のエルサレムをイスラエルの首都と認める発言に反発、波紋が広がっている。トランプの発言はイスラム教徒への深刻な挑発につながるが、なぜこうもイスラム教徒への配慮に欠ける、無神経な発言を行うのか。彼の支持基盤であるキリスト教原理主義者への同調が背景にあるようだが、いったいキリスト教原理主義とは何なのか。キリスト教の聖典である「聖書」の文言に忠実であろうとする立場のようだが、そうだとするとここで聖書の教えに立ち帰ってみる必要がある。 話は「旧約聖書」の中の信仰の父アブラハムまでさかのぼる。信仰篤いアブラハムとサラ夫婦は子宝に恵まれなかった。神は「あなたを大いなる国民にし・・・あなたの子孫を大地の砂粒のようにする」(創世記 15章5ー7節)と約束されたが、子供はできず二人は老いるばかり。ついにサラは彼女のエジプト人の女奴隷ハガルをアブラムの側女にし、子どもを産ませようとした。そしてハガルはイシュマエルを産んだ。その後、なんとアブラハム100歳の時、サラは90歳にしてイサクを出産した。ある時、イシュマエルがイサクをからかったのをきっかけに、サラの頼みを聞き入れてアブラハムはハガルとイシュマエル親子を追放。この時、神はこう言っている。

 「あの女(ハガル)の息子(イシュマエル)も一つの国民の父とする。彼もあなたの子であるから

  だ。」(創世記 21章 12-13節)

 さらに、追放され荒れ野をさまよい飢えと疲労と絶望で泣き叫ぶハガルに、神の御使いが 呼びかけてこう言う。

 「ハガルよ、どうしたのか。・・・あの子を抱き上げ、お前の腕でしっかり抱きしめてやりなさ

  い。わたしは、必ずあの子を大きな国民にする。」(創世記 21章 17-18節)

 そして、イシュマエルはアラブ人の祖先となった。キリスト教の聖典である聖書自身がイシュマエルを、「一つの国民の父」であり「大きな国民」の祖先と記しているのだ。そこには、蔑みの視線などまるで存在しない。

マッティアス・ストーメル「ハガルをアブラムにあてがうサライ」ベルリン国立絵画館

グエルチーノ「ハガルとイシュマエルを追放するアブラハム」ブレラ美術館

ジュゼッペ・ボッターニ「ハガルと天使」ルーヴル美術館

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